2020年06月03日

錨を下ろして、根を張って、雨風をしのぐ。

良いことがあった後には悪いことが起きるような予感がする。そして悪いことが起きたときにはきっとこの後良いことが待っているんだと思う。
例えばたくさんの人に会って話をする日が続いた後には、少し一人で静かに過ごす時間が欲しい。しばらくsoloを楽しんだ後には、やっぱり人の声が聞きたい。
こうしてバランスを取ろうとする衝動は一体どこから来るのだろう。たぶん、極々普通のことなはず。他人に感謝された今が「調子の良い状態」だとすると、このふわふわした根性を早く地上に引き戻さなければ!と思う。晴れた空に漂っている場合ではない、これから梅雨なのだ。地に足つけていなければ、あっという間に流されてしまう。

定期的に読み返している本の一つに、『スピカ 羽海野チカ初期短編集』(2011/羽海野チカ・著)がある。ついさっきも読み終えて、そしたら文章がどことなく彼女の物語に出てくる調子になってしまった。私はものすごく影響されやすい、でも同時にすぐ忘れる体質だ。
羽海野さんは『ハチミツとクローバー』や『3月のライオン』を描かれた方だ。もちろん両作のアニメもばっちりチェック済。羽海野さんの描く柔らかくて優しい表情をした登場人物を久しぶりに目の当たりにすると、心の中のトゲトゲとした焦りや不安の気持ちが穏やかになっていく気がする。
最初に手に取ったきっかけは自分と名前が一緒だったから。効果音や周りに出てくる動物の気持ちが言葉で書かれていて、毎ページの文字量が多いため非常に読み応えがある。漫画としては珍しくじっくりと時間をかけて読むことができる。鞄の中身をぶちまけて「ぶあっさー」、男子野球部の部室に女子が存在することで野球部員が感じる「ほわ〜ん(花)」などの独特な効果音、その他「こつぜん…」「動揺っっっ」といった状況や心情を表すためにコマの中に直接書き込んじゃう作風はとても特徴的だと思う。この「読んでいる感」が強いところが気に入っている。
『スピカ』は震災のあった2011年の夏に出版され、印税は全て災害復興の義援金に当てられた。2011年、私は当時13歳で、スピカに出てくる少女と同じようにバレエを習っていて、震災のあった夏に家族で東北を訪れた。いろいろ重なる点が多いのと、「何かを好きになったけれどプロになれなかった、一番になれなかった人間を笑うか?」というメッセージは何回読んでもふと立ち止まって考えさせてくれる。

限られた枠の中で何かを伝えること。伝えたいそのものをまずは自分が好きになること。


Posted by シバタ チカ at 15:53 │日々の記録